
絵本『さざえ売り娘』
文・絵 弘中香織

うすやみの町に灯りがともるころ、潮の香りの風が吹いてさざえ売り娘がやってくる。
娘は天秤棒を肩にかついで、大きなサザエやアワビを売り歩く。
その売り声は町に良くひびいた。
「さあさあお客さん!今朝採ったばかりの海の幸、サザエにアワビだよ。壺焼き、酒蒸し、バター焼きに活け造り。食べ方は何でもござれ。いちど食べたら病みつきの味。磯の旨味たっぷりの美味しいサザエいらんかね、プリップリの歯ごたえの美味しいアワビいらんかね」

その売り声に誘われた町の人々は次々に手を差し出した。
「わたしにサザエ五つちょうだい」
「おれにはアワビを三つだ!」
「ワシには大きいサザエをくれ」
「はーい、まいどありー」
娘の売るサザエとアワビは味が良く、町ではたちまち評判になって売切れた。
町の人々は口々に娘のうわさをした。
「あんな大きいサザエは見たことがない。どこで仕入れてるのかしら」
「あの娘は実は海女かもしれん。どこかの海にもぐって獲物を採っては、遠い町から行商に来とるんじゃないか?」
「いやあの娘はあやしい者や。海の底に住む年取った妖怪サザエが人間の女に化けて、町の人間をたぶらかしに来とるのかも知れんぞ」

しかし、娘の売るサザエやアワビを一度食べた者は、男も女もむしょうにまた食べたくなり、みずから海に飛び込んでしまうのだ。近隣の海ではそんな光景がよく見られた。

それらの人間を尻目にさざえ売り娘は天秤棒を肩に、今日もどこかの町を売り歩く。
「サザエ~サザエ、美味しいサザエはいらんかね、アワビ~アワビ、美味しいアワビはいらんかね」
おしまい
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